奇跡という医学、Dr.ヒルルク(ワンピース)

 ワンピースで誰が一番好きかと聞かれると、もちろん1キャラなんて選べないっ!とは思うけど、どうしても選ぶんならDr.ヒルルクになります。コミカルで、抜けてて、一心で、優しくて、とても惜しい人だと思う。

トニートニー・チョッパーとDr.ヒルルク

 仲間からつまはじきにされていた青っ鼻のトナカイ。悪魔の実の一つ〝ヒトヒトの実〟を食べてしまい、さらにトナカイの元に戻ることができず、人間の町にいっても雪男と呼ばれ銃を放たれ重傷を負ってしまう。
 独りぼっちで傷だらけ、雪深い森の中で倒れて動けなくなってしまったところに男が一人現れました。しかしなんとか治療しようと慌てる男のカバンの中から銃が出てきて驚いた。それに恐怖をかりたてられて大暴れしてしまう。頭から血を流し倒れた男はそれでも治療をするため、全身の服を脱ぎ、
 「おれは決して
  お前を撃たねぇ! ! ! !」と叫んだ。
 自分はDr.ヒルルクという医者だと名乗るとトナカイは気絶してしまいました。
 Dr.ヒルルクの家で目覚めたトナカイは初めての優しさに触れ、涙があふれてしまいます。その後Dr.ヒルルクの元での入院生活も初めてづくしでした。
 人の言葉でしゃべっても嫌われない。
 トニートニー・チョッパーという名前をくれた。
 初めてケンカをして、仲直りし、
 初めてプレゼントをもらった。
 初めて奇跡の話を聞いて、
 信念を掲げるかっこいい人を見た。そして1年……
 Dr.ヒルルクはチョッパーを完治したから、と家から追い出します。
 悲しみに涙を流し、どんなに訴えてもDr.ヒルルクはチョッパーを中に入れません。なぜならDr.ヒルルクは自分の死期を悟っていたからです。チョッパーは隠れながらDr.ヒルルクが医者仲間とそれを話していたのを聞き、一人で森の中に入っていきました。町で聞いたことのある万能キノコを採りにいくことにしたのです。
 Dr.ヒルルクは自分をむしばむ病気に耐えながら奇跡を起こすために研究を続ける。何度も失敗を重ね、それでも自分の体験した奇跡を再現したい、時間との勝負でした。そこにチョッパーが現れます。
 ボロボロの血だらけになったチョッパーは一つのキノコを手に持ってDr.ヒルルクの元に帰ってきました。Dr.ヒルルクは自分のためにそれをとりにいったのだとすぐに悟り、2度目の仲直りです。
 キノコを食べたDr.ヒルルクは今までで一番の笑顔を見せチョッパーに感謝を伝えます。その時。
 部屋のすみの研究器具の特別な反応を発見します。研究が成功した。これで奇跡を起こせるDr.ヒルルクは確信しました。
 ケガをしたチョッパーをベッドに寝かしDr.ヒルルクは出かけました。出がけに、
 「お前はいい医者になれるぜ!!!!
  おれが保証する!!!!」と言葉を残して。


Dr.ヒルルク

 Dr.ヒルルクは自分の命が短いことを知っていました。なぜならチョッパーが命をかけてとってきたキノコが、猛毒のキノコだと知っていたからです。それでも食べてしまった。どうせ死期は迫っていたし、自分のためにボロボロになったチョッパーを見て食べないわけにはいかなかった。そして奇跡が起きた。研究に成果が出た。
 Dr.ヒルルクは家を出て、研究の続きとチョッパーの今後を医者仲間のDr.くれはに何とか託し、聞き及んでいた国の一大事の救出に向かった。
 それは自分と医者仲間Dr.くれはを除いた王おかかえの医師団が全員倒れたという話でした。自分が医師団を救うんだ、と城に着いたDr.ヒルルクを待っていたのは、しかし王の罠でした。
 王は悪政をしながら、いうことを聞かないDr.ヒルルクが目に障り、罠にかけ処刑することにしていたのです。しかし銃口を向けられたDr.ヒルルクは、
 「よかった…病人はいねェのか…
  おれァてっきり…………国の一大事かと…
  何だァ…おれがダマされただけか…」
 と心からホッと胸を撫で下ろしました。
 王は無関心にも撃ち殺すことを命令します。しかしDr.ヒルルクは、
 「やめておけ
  お前らにゃあおれは殺せねェよ」といいます。
 「人はいつ死ぬと思う…?
  心臓を銃で撃ち抜かれた時……違う
  不治の病に冒された時……違う
  猛毒キノコのスープを飲んだ時…違う!!!!
  …人に忘れられた時さ…!!!」そして、
 「まったく!!!!いい人生だった!!!!」
 と叫び、さかずきに酌んだ爆薬を一息に飲み下し、〝ありがとうよチョッパー〟と大爆発。Dr.ヒルルクはこの世から去りました。


一点突破

 元大泥棒だったDr.ヒルルクは不治の病を患って死の宣告を受けながら、たまたま見た山いっぱいの桜を見たことで、健康体になるという奇跡を経験。これは奇跡ではあるが立派な〝医学〟だ、というDr.ヒルルク。そして全ての病気にドクロを掲げる。信念の象徴であるドクロを掲げ、どんな病にもきく〝奇跡の桜〟を咲かせようとするDr.ヒルルクは、チョッパーと出会うことでもう一つの目的ができていく。チョッパーははみ出し者、トナカイからも人間からも追われる姿は、悪党だった自分、町から迷惑なヤブ医者と呼ばれはみ出す自分と重なってしまう。Dr.ヒルルクは自分が奇跡を起こすことでチョッパーを勇気づけてやりたかった。
 Dr.ヒルルクの改心、そして奇跡を信じ、それを他者のため再現するために一生を捧げる。医者としての志と信念。病人の為にと命がけで向かって、それが騙されただけ、ただの罠だった時、
 〝自分が駆け付けたことは無駄だった〟とか〝騙された〟とか〝今から殺される〟とか、
 色々考えつくことが多くあったろうに、Dr.ヒルルクは、
〝病で苦しむ人はいなかった〟〝国の一大事ではなかった〟としか思わなかった。本当に救うことしか考えなかった信念の人だ。
 そしてDr.ヒルルクは爆薬を飲む。チョッパーの優しさに泥を塗らない。
 最後に感謝を残してこの世を去る。ワンピースではこれが何度か起きて心が救われる。
 感謝を捧げながら死ぬことは、死自体が満ち足りたものであって、同時に生も満ち足りていたのだと知らしめる。自分もそう死にたいし、そう生きたいと思う。

 チョッパーにとってDr.ヒルルクは奇跡そのものだったと思う。生まれて初めてのたった一人の仲間。そのDr.ヒルルクの思いを受け継ぎたくて、Dr.くれはに師事するときに、〝おれが万能薬になる〟と叫ぶ。次は自分が奇跡になるんだと宣言するチョッパーは信念のドクロを力いっぱい振り掲げる。
 麦わらの一味に誘われて島を出るとき、チョッパーには不安が残った。結局桜を見たことがなかったからだ。奇跡は起きた、でも信念の先は……ドクロは掲げた、これから海賊の仲間入りだ、その先は、
 Dr.くれはがDr.ヒルルクから引き継いだ研究の成果を空に放つ。
 Dr.ヒルルクの信念の先にあった、奇跡という医学。
 それはチョッパーの信念へのDr.ヒルルクの保証。


余談

とはいえDr.ヒルルクは患者に効果の定かでない薬を投与したり、爆弾投げたりなかなか迷惑な奴でもあります。目には余りますが、まぁ不完全という茶目っ気ということで何とか目をつぶってくださるように、と思います(笑

おわり

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