鳳凰院凶真またの名を、岡部倫太郎(STEINS;GATE)

 一世を風靡した作品。はまった人はどっぷり浸かって抜け出せなくなったことでしょう。かくいう私は人の勧めでPSP版をプレイ、その後アニメと映画、そしてアニメのゼロの観賞まで。広がりは他にも漫画や小説やアプリゲームやらその他にもいっぱいいっぱいあるのだけれど、この手の多角的な広がりをみせた作品って、どれが公式なのかわけわからなくてちょっと手を広げづらい……しかし当時の熱量を一緒に楽しめたら、めちゃめちゃに浮かれただろうなぁ。


STEINS;GATE(シュタインズゲート)

 ストーリーとかあらすじとか、そういったものはちょっと説明しなきゃいけないことが多すぎて、見た人から「なんだか小難しくてよくわからんかった」という感想も時々聞いたりする作品です。実際見てみると、理論説明なんかも多くて、完全文系で育った人(私が)ちゃんと理解しながら見進めようと思うと、見返して戻ってを繰り返して、せっかく質のいい流れが頭に入ってこなかったりしてしまう(元々過去と現在とを行ったり来たりのストーリーなので余計に)。なので、もう、そういうのは、抜きにして、
 〝なんか過去に干渉できる機械をたまたま作っちゃった若者が、調子に乗りすぎて右往左往する物語〟
 くらいに考えましょう。特に文系一直線の人はその時のキャラクター達の内面、心の動きなんかを見ているだけで楽しめる作品であります(決して面白がるというスタンスではなく)。


鳳凰院凶真またの名を、岡部倫太郎

 そしてそのシュタインズゲートの主人公、が、鳳 凰 院 凶真!ではなく、というより、でもある岡部倫太郎!である。
 一切見たことのない人には全くわからない。
 岡部倫太郎、彼は中二病をこじらせ、別名(鳳凰院凶真)で生活を送る。一言でいうと痛い奴。二言でいうと痛くてやばい奴(迷惑な奴、といってもいいかもしれない)。しかし彼の周りにはそれなりに人が集まっている。そしてその人たちに迷惑をかける。
 なんだか不思議な科学道具(ガジェット)を開発しているあたり頭がよさそう。しかしこの鳳凰院凶真、デリカシーが皆無。人の秘事にも土足で踏み入り、過去干渉の実験につき合わせたりする。とても軽薄な若者だ、と思う。しかしそれはそれで彼の魅力だから困る。そうして彼の強引さで物語は進んでいく。進んでいってしまう。
 過去にメールを送る実験が成功し、現実に少しずつ(時には大きく)変化が起こる。しかしその変化を記憶しているのは彼だけである。例えば、男性だったキャラクターが女性になっていたりする。岡部は一人そのキャラクターを男だと思っているが、みんなは「は?あの子は生まれた時から女の子ですけど。何言ってんの?」となる。この時の岡部のうろたえっぷり。
 そして軽薄な行動が危険を呼ぶ。
 過去干渉できる道具から開発を進め、なんと現在の記憶を保ったまま過去に意識を送り届ける、という道具を開発してしまう。
 意識限定でのタイムマシン。タイムリープ。
 しかし束の間、幼馴染のヒロインに悲劇がおきる。それまでの過去改変の情報が漏れていたことなど、もろもろが原因で、とある組織に襲われ、幼馴染が殺されてしまう。この時の岡部の激情。
 ぎりぎりのところで幼馴染が殺される前の時間にタイムリープすることで幼馴染を救おうとする。岡部の奮起。
 しかし、失敗する。またタイムリープする。
 しかし、失敗する。失敗を繰り返す。
 幼馴染が何度も殺され、時には逃げ切ったところで事故で死ぬ。運命が逃れることを許してくれない。この時の岡部の絶望。

 そしてタイムリープを繰り返しながらも、実験で変わってしまった過去を元に戻せばこの運命から逃れられるはずだ、と考えそれに奔走する。大きく割愛しているけれど、岡部の心情が激流にのまれていく様は想像できると思う。この後、過去改変を取り消していく最中、軽々しく行われていた実験が、実はそれぞれにとても大切な願いだったりして……岡部はそのたびに悔恨の念にかられたりします。同情したくなります(けっこう自業自得だったりもするけれど)。
 岡部けっこう頑張っております。頑張れちゃうやつ。
 ここが岡部のいいところ。


一点突破

 岡部を見ていると〝献身〟という単語が思い浮かぶ。
 誰かの為になら頑張れちゃう、というのはただの主人公の特性だ、と身もふたもなくいってしまえるかもしれない。けれど、岡部は痛くてやばい奴だが、そもそもそういった生き方をしてきました。中二病の発現も、幼馴染のヒロインがどうしようもなく心を閉ざしてしまった時期に、何とかしようという試みだったり。
 だからか中二病状態のとき献身に対しての行動力が飛躍的に伸びます(軽率さも飛躍的に向上するのが玉に瑕だが)。
 岡部の周りにいる仲間たちも、そのずけずけとした物言いや行動に少なからず救われたり、助けられた人だったり。そもそもそういう無遠慮さがなければ心を開こうとしない人もいて、そういう人はその一貫した痛さに信頼を置いていたりする。(気障なセリフを羞恥心なく吐けたりもかっこいい)
 そんな岡部も決してくじけない、なんて奴じゃないです。何度も何度も諦めかけます。心を削られすぎてどうしようもない時もありました。そんなときに支えてくれるのはやっぱり仲間。これはもうそんな仲間ができるだけの岡部の良さとして、献身で岡部が動いているとわかってくれる人がいる。熱い。

 この物語はSFだったりミステリーともサスペンスともいえますが、一番は岡部倫太郎ののビルドゥングスロマン(教養小説とか成長小説みたいな)といいたい。
 SFビルドゥングスロマン!
 岡部の虚勢あり、絶望あり、後悔あり、奮起あり、山あり谷ありとけっこうな盛りだくさん話。


余談

 このシュタインズゲート。もひとつ。
 それは声優がすごい、ということ。各キャラクターそれぞれの声優さんが素晴らしいのはもちろんのこと、岡部倫太郎(鳳凰院凶真)を演じているのが、
 宮野真守さん!
 これがとってもいい。
 岡部倫太郎の激動の心情も、時にはダサく、時には痛々しく、そしてもちろんかっこよく!これほどの揺れ幅のあるキャラクターをよくここまで演じてくださった。
 宮野真守さん出演のアニメは他にもいくつも見ていますし、原作からのアニメ化で「あ、このキャラ宮野さんだっ、やったあ!」なんてこと何度もありましたが、個人的なベストオブ宮野真守はこのシュタインズゲートの岡部倫太郎です。ダサい時はほんっとにダサい。宮野真守さんが声優でこんなにダサいことある?と思うくらいダサい。しかしかっこいい時、岡部倫太郎なのにこんなにかっこいいことある?と思うくらいかっこいい。これは宮野真守さんのおかげが大きいんだろうと現実に戻ると思うのです。

おわり

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