稚拙か清廉か、十六夜(幻想大陸)

幻想大陸

 邪神竜の影響で魔物が跋扈する世界。三人の若者が旅をしていた。
 国を守るために魔物と戦うばかりだったが、それが平和につながっていると思えず飛び出したカイ。
 記憶を失くしてしまったが、自分がダークエルフという種族であること、そして同族が魔物によって滅ぼされたことを知り邪神竜を討とうしているジェンド。
 迷子になり故郷を探しながらも二人と出会い、邪神竜に「みんな仲良くしよう」と説得しようとしている少年、十六夜。
 すぐに魔物に切りかかる乱暴者のジェンドといつもおちゃらけているが実力者なカイ。そして魔物相手に、例え自分が傷つこうがお構いなしに争いを、憎み合うことを鎮めようとする泣き虫な十六夜。このかみ合わない三者の掛け合いで旅と物語は進んでいく。しかしこの三人組の居心地の良さは抜群で、優しさを諦めない雰囲気がずっと漂っている漫画。全二巻。


二人から見た十六夜

 魔物と戦おうとするとすぐに邪魔ばかりする泣き虫、とジェンドは思っている。しかも言葉の通じない魔物にも優しい言葉で話しかけ、傷を負わされることもしばしばな気持ち悪いやつ。何よりも気持ち悪いのはそれで本当に心を通わせて仲良くなってしまうこと。それらに対しての頑固さが手に負えない、とジェンドは思っている。
 幼い子どもなのに故郷を見失って大変だろうとカイは思っている。ドジばかり泣いてばかりで放っておけず、自分がおちゃらけることで心が軽くなるならいくらでも、とバカを演じているが、実は友人の「魔物が滅んだ世界が平和なのではない。人間と魔物が共存する世界が本当の平和…」という言葉を体現するような十六夜を今は見ていたい、とカイは思っている。


一点突破

 この漫画にずっと漂う気配。それは十六夜が生み出している。物語の冒頭でも、降りられなくなるほどの高さの木に登り、降ろしてみるとケガをした魔物を抱えていたり、危険な魔物が現れ、切りかかろうと剣を構えるジェンドの前にも立ちはだかり、その時にいつもの泣き虫の様子はうかがえない(いや泣きながらもあったか。
 とにかくそのことについてのみ、いように芯が固い。〝どうにかできる〟と自信をうかがわせるわけじゃなく、〝こうなってほしい〟とただ願うばかりでもない。
 カイが十六夜のおかげでジェンドが変わってきている、魔物にもジェンドにも優しさを十六夜が与えているんだな、というと「それはもともとジェンド達がもっていたものじゃないの?僕はきっかけにしかすぎないんじゃないの?」となんだかわからなそうに返事をする。
 十六夜は心のどこかに、誰しも優しい気持ちがあると信じている。そして他者のそこに光を当てる力がある。
 これがこの漫画全体の良い気配の正体だと思う。異種間であることなどそもそも十六夜にとっては障害でも何でもなく、元々言葉を自在に扱うような彼でもない(しかし余計なしがらみや私欲のない純真な言葉は刺さる)。ただ全身で体現する。
 自身が傷つくことがあっても信じることをやめない強さに感動する。
 この漫画を読むと、自分の中にも優しさがあるのだと思うことができる。
 十六夜が光を当ててくれる、と思いました。


余談

 タイトルの通り、稚拙か清廉か。十六夜の考えは現実を見ていないといえるし、実際傷ついたり、もしジェンドが思いきって魔物を討たなければ、メンバー全滅の場面なんてこともあったり。でも現実にそぐわない、とか不毛だったりすることも、信じ続けるってことと別でいいと思います。稚拙だって侮ったり、言い訳したりしない人生を歩めたらいいなぁと思います。
 それと異種間の絆いいなぁと思う。でもこれはたぶん自分を人間としてみていないのがあるからか。魔物側から、人間を遠目に見てる部分があります。
 異種間絆の自分の中の大元の漫画だ。幼い時にこの漫画を古本屋で見つけて買って、今まで大事に持ち続けている自分がなんだか嫌いじゃないと思ったり。

おわり

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